「手作りごはんって、市販フードより愛情あるよね」
そう信じて、わんにょむに手作りごはんを試した時期がありました。
ある研究を読んで、その「愛情」が、別の側面で足りないかもしれないと知った日の話を書きます。
カフェの常連さんが、嬉しそうに見せてくれたレシピ
ある朝、シニアの愛犬を連れた常連さんが、スマホを見せてくれました。
「これ、うちの子のごはん」
写真には、鶏むね肉、ブロッコリー、にんじん、玄米が綺麗に盛り付けられていました。 人間が食べてもおいしそう。 その方は、誇らしげに「もう3年、手作りごはん続けてるんですよ。市販フード一切やめて」と。
私は「すごいですね」と言いながら、心の中で(私もそろそろ手作りやってみたいな)と思っていました。
家に帰って、わんにょむを見ました。 いつも食べているドライフード、まあ栄養バランスは取れているはずだけど、人工的な感じがする。 鶏むねを茹でて、野菜を刻んで、お米を混ぜたら、もっと「愛情」がこもったごはんになるんじゃないか。
ネットでレシピを検索したら、たくさん出てきました。 「犬のための手作りごはん10選」「シニア犬におすすめのレシピ」。 材料も家にあるものばかりで、特別な道具もいらない。
「これなら、私にもできそう」と、その週末から手作りを始めてみました。
「手作り=安心」だと、無条件に信じていた
手作りごはんを始めて1ヶ月くらいは、わんにょむも喜んで食べていました。
「うちの子、手作りに切り替えたんですよ」と常連さんに話すと、「素敵ね、続けるといいよ」と褒めてもらえる。 SNSにも「#愛犬の手作りごはん」みたいなハッシュタグがたくさんあって、なんだか正しい飼い主になった気分がしていました。
でも、3週間目くらいから、ちょっと気になることが出てきました。
わんにょむの便が、ちょっとゆるくなった。 毛艶が、なんとなく前より落ちている気がする。 あと、なぜか以前より「お腹空いた!」とせがむ回数が増えた。
「気のせいかな」と思いつつ、なんとなく落ち着かない。
そのとき、ふと(私が作っているこのレシピ、本当に栄養足りているんだろうか)という疑問が浮かびました。 レシピを書いた人はどんな根拠で「これでいい」と言っていたんだろう。 私はそれを、なぜ無条件に信じていたんだろう。
その夜、検索バーに「犬 手作りごはん レシピ 栄養 研究」と打ち込みました。
「106レシピを分析したら、すべてに不足があった」研究
たどり着いたのは、2017年に出た、ちょっと衝撃的な研究でした。
研究者たちは、犬と猫向けの手作りごはんレシピを、本やネット、雑誌から106件集めて、栄養バランスを分析したそうです。
結果は、想像していなかった数字でした。
106のレシピすべてに、最低1つの栄養素が推奨レベルを下回っていた。
「すべてのレシピで」。 「最低1つの栄養素が不足」。
何度か読み直しました。 100%、つまり全てのレシピが、何かしらの栄養素を欠いていた、ということ。
しかも、具体的にどの栄養素が、どれくらいの割合で不足していたかも書いてありました。
- 鉄分:犬向けレシピの68.3%で不足
- ビタミンE:犬向けレシピの82.9%で不足
- 亜鉛:75.6%で不足
- カルシウム:73.2%で不足(推奨量の19.7%しか含まれていない)
- 銅:85.4%で不足
カルシウムが推奨量の19.7%って、5分の1しかない、ってこと。 これを長期間続けたら、骨や歯の問題が出てもおかしくない。
しかも、レシピの48%が「材料の正確な量を書いていなかった」そうです。 作る側がきちんと計っても、レシピそのものに曖昧さがある。
——「手作りごはん=栄養バランスが取れている」というのは、私の思い込みでした。
ページを閉じて、ちょっと愕然としました。 私が3週間「愛情」と思って作ってきたごはんは、栄養学的にはたぶん不完全だった。 わんにょむの便がゆるくなったり、毛艶が落ちたりしていたのは、それが原因かもしれない。
「市販フード批判」が、私の中で書き換わった
手作りごはん派の人たちは、よく市販フードを批判します。 「添加物が」「人工的な原料が」「ペットフード会社の都合が」と。
そういう話を聞いていると、なんとなく「市販フード=悪、手作り=善」みたいな対立構造ができあがる。 私もずっとそういう前提に立っていました。
でも、研究を読んで、別の見方が出てきました。
市販のドッグフードは、AAFCO(米国飼料検査官協会)やFEDIAF(欧州ペット食品連合)の厳しい栄養基準に従って作られている。 鉄分、ビタミンE、亜鉛、カルシウム、すべての必須栄養素を、犬の体重と活動量に合わせて適切に配合している。
つまり、市販フードの「不自然さ」と引き換えに、栄養バランスの保証が手に入っている。
逆に、手作りごはんは「自然」と「愛情」を選び取れるけど、その代わりに栄養バランスの保証は自分で背負う必要がある。
どっちが「正しい」じゃなくて、どっちが「うちの子に必要なものを満たしているか」が大事だった。
「ベース+トッピング」のスタイルに変えた
研究を読んでから、私のスタイルは変わりました。
ベースは、栄養バランスの取れた市販のドッグフード。 そこに、わんにょむが喜ぶトッピング(茹でた鶏肉、人参のすりおろし、温めた野菜スープなど)を少量プラスする。
「100%手作り」をやめて、「市販フード+手作りトッピング」に切り替えた。
これだと、栄養バランスは市販フードが担保してくれて、私はわんにょむに「愛情のスパイス」を加えるだけ。 完璧な栄養計算を自分でする必要もない。
わんにょむの便は、すぐに元の固さに戻りました。 毛艶も、1ヶ月くらいで戻ってきた。
今は、週末だけ「特別トッピング」をする日にしています。 平日は普通のドッグフード。週末だけ少し人間の食材を足す。
それが、私とわんにょむのちょうどいい整え方でした。
「愛情」と「栄養」を、両方守りたい
カフェのあの常連さんに、後日この話を伝えてもいいか迷いました。 3年も手作りごはんを続けてきた方に、「実は不足があるかもしれません」と言うのは、傷つけるかもしれない。
でも、ある日、私がベース+トッピング方式に変えた話を、なにげなく話したんです。 「100%手作りやってたんですけど、研究で栄養不足のリスクがあるって知って」と。
その方は、ちょっと考え込んでから、「私も、一度獣医さんに相談してみようかな」と。 責めるでも、否定するでもなく、自然な流れでした。
「愛情と栄養は、両立できる」。 それを、お互いに選び直していけたらいい。
明日もわんにょむのごはんは、市販フードに、人参のすりおろしをひとつまみ。 それで愛情と栄養の両方が、たぶんちゃんと届いていると、今は思っています。